キャッシュフローとファイナンス
企業が系統用蓄電池ビジネスを実施するにあたって、検討すべきキャッシュフローの考え方や事業評価の指針、資金調達手段について解説していきます。
キャッシュフローの考え方
系統用蓄電池ビジネスにおいては、一般的に市場価格が最安の時間帯を中心に充電を実施して、高値のタイミングで売電する値差を利用した裁定取引(アービトラージ)が売り上げの中心となります。取引にあたり、売電に関しては従来のスポット市場への売電に加え、需給調整市場や容量市場への参入により収益の向上を図ることが可能です。
→系統用蓄電池の運用方法
したがって、収益が市場取引成果に直結することから、変動的な市場単価を過去データや将来予測を踏まえたうえで算出する必要があります。そして、それら市場で得た売電収益から各種経費を差し引くことで、系統用蓄電池ビジネスは実質収益を計上していきます。
収益=売電収益-(設備償却+管理維持費+諸経費)
具体的には、会計上では下記のような項目を経費計上する必要があります。
・電力調達原価
・託送費用
・管理手数料
・減価償却費
・固定資産税
・発電側課金
・廃棄費用積み立て
また、検討の際あらかじめ以下のような運用方針を定めたうえで検討する必要があります。
・電力の販売先
・1日の充放電サイクル
考慮すべき事業評価指針
収支計画を考えるうえで主に以下の項目を評価指針として検討することで、投資予見性が低いといわれる系統用蓄電池ビジネスでもスムーズに投資回収、黒字化へ近づけることが期待できます。
● 投資回収期間(RB)
→投資安全性の判断
投資額÷年々のキャッシュフロー
<注意点>
・収益性に関して判断できない
・キャッシュフローの時間的価値を考慮していない
● 内部収益率(IRR)
→厳密な利回りの算定
→時間的価値の判断
キャッシュフローの現在価値合計-投資額=0となる割引率
<注意点>
・投資規模を考慮できていない
● 投資利益率(ROI)
→収益性の指針
(年々の利益÷投資額)×100
<注意点>
・長期的評価の困難性
主な資金調達手段
系統用蓄電池ビジネスへの参入にあたり、事業費の資金調達を行う主な方法は以下の3つです。
- 1. 自己資本
- 2. コーポレートファイナンス
- 3. プロジェクトファイナンス
これら調達手段についてそれぞれの特徴や注意点について解説していきます。
1. 自己資本
自己資本での資金調達は、その名の通り企業自身が資金を準備する方法で、株式や出資証券の発行などにより調達を行うこともあります。基本的に返済の必要がないため(厳密に言えば払い戻しに応じなければならないケースもあります)比較的安全な調達手段といえます。
<注意点>
・新株を発行すると、株主の影響力が高まり経営に介入する機会が増えるため、事業者が思うような経営ができなくなるといったリスクがあります
・系統用蓄電池ビジネスは投資額が大きいため、資金に余裕のある企業に限定されてしまう傾向があります
2. コーポレートファイナンス
コーポレートファイナンスは他人資本(外部資本)による資金調達方法のひとつで、金融機関からの融資や株式・社債の発行などが一般的です。調達資金から事業投資を行い、利益を上げることで調達元へ返済・還元していきます。調達目的が「企業全体を対象とした財務活動」であることがプロジェクトファイナンスとの主な違いで、資金調達の評価対象は企業の価値や信頼性であり、資金調達も企業全体に対して行います。
<注意点>
・融資を受ける場合、企業の信用力を担保にするため借入可能な金額が制限されることがあります
・融資は借りたお金を返済しなければならないため、返済義務が発生します
・元本に対して利息が発生するため、返済額が借入額よりも多くなる点に留意する必要があります
3. プロジェクトファイナンス
プロジェクトファイナンスも他人資本(外部資本)による資金調達方法のひとつで、金融機関からの融資や株式・社債の発行などが一般的です。調達目的が「特定のプロジェクトを対象とした財務活動」であることがコーポレートファイナンスとの主な違いで、特定事業に対して資金を調達して、そこから生み出されるキャッシュフローを原資として返済を行います。
主に資源・電力・インフラ分野を対象とし、10~30年といった長期の経済耐用年数・償却期間を必要とする大型設備向けの融資が適しています。
<注意点>
・融資に対する返済の原資もプロジェクトから発生するキャッシュフローに限られており、事業を行う企業やスポンサーへの債務保証を求めない
・金融機関が蓄電池をプロジェクトファイナンスによる融資対象として見る場合は相対契約による収入の方が、リスクが低いと捉えられる傾向にある
まとめ
系統用蓄電池ビジネスの収益は売電収益と直結しているため、市場運用精度に大きく左右されます。また、キャッシュフローの算定は運用年数や1日のサイクル数によって変動するため運用方法をよく検討したうえで、企業の資金力と長期的目線で資金調達手段を選択しましょう。
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