出力制御と系統用蓄電池の連携

再生可能エネルギーの導入が加速するなか、日本の電力系統は安定性を確保するために「系統用蓄電池」と「出力制御」の技術が注目されています。


出力制御の役割

出力制御は発電側の電力供給が需要を超える場合に、系統の過負荷を防ぐために再生可能エネルギー電源などを対象に出力を止める指令が行われます。発電の変動が激しく電力の需給バランスが崩れると、過剰な電力が系統に流れ込み送電網に負荷をかけることから、需要を上回る分の電力を抑制する必要があるためです。

また、地域間の送電能力が不足している場合にも余剰電力を他の地域に送ることができず、周波数の不安定を招くため出力を抑える必要があります。したがって、系統への負担を軽減し、周波数の安定を保つ重要な役割をもっています。


出力制御の課題

出力制御は、電力供給の過剰が生じる瞬間に、太陽光や風力などの再生可能エネルギー発電を中心とした電源の出力を抑制することで実施されます。ただし、出力制御の頻繁な実施は再生可能エネルギーの最大限の利用を妨げる要因となり、再エネ発電事業者にとっても経済的損失をもたらすため、なるべく回避したいという課題があります。

この課題に対応するため、系統用蓄電池のさらなる活用が期待されています。蓄電池の技術進化によって、再エネ発電事業者が出力制御に振り回されず発電事業を継続できるため経済的メリットも大きくなります。


出力制御が起こりやすいエリアや時期


出力制御が起こりやすいエリア

再生可能エネルギー電源が多い地域
特に、太陽光発電や風力発電が多く導入されている地域では、天候や風速の変動により発電量が急増することがあります。日本では九州電力管内が、出力制御が多く発生する地域の一例です。九州は再生可能エネルギーの比率が全国でもトップクラスで太陽光発電の導入量が多く、電力需要を超える発電量が発生しやすいエリアといえます。

九州電力は 2018年度に離島以外で全国で初めて出力制御を実施し、23年度までの累計実施回数は458回に達しています。また、抑制された電力量は一般家庭30万世帯分にも匹敵します。2024年度も引き続き出力制御の実施が見込まれることから系統用蓄電池のさらなる活用が期待されています。


九州本土の年間出力制御実施状況
2018年度2019年度2020年度2021年度2022年度2023年度
制御電力量1.0億kW4.6億kW4.0億kW5.3億kW4.5億kW12.9億kW
回数26回74回60回82回80回136回
参照:経済産業省,『再生可能エネルギーの出力制御の抑制に向けた取組等について』, 2024年5月24日,https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/shoene_shinene/shin_energy/keito_wg/pdf/051_01_00.pdf


送電網の制約がある地域
発電量が需要を超えた場合、余剰電力を他地域に送電できる能力が限られていると、出力制御が必要になります。離島や山間部など、電力インフラが限定的な地域ではこの問題が深刻化しやすいです。



出力制御が起こりやすい時期
  • 春や秋の晴天時
    春や秋は、暖房や冷房の需要が少ないため、電力需要が比較的低い時期です。一方で、太陽光発電の出力が高まる季節のため、発電量が電力需要を超えることがあり出力制御が発生しやすくなります。

  • 風の強い時期
    風力発電が多い地域では、風が強い日や季節に発電量が急増することがあります。特に、電力需要が低い夜間に風力発電が高出力を維持すると、出力制御が必要になる場合があります。

  • 休日や連休中
    産業需要が減少する休日や連休中は、全体の電力需要が下がる傾向があります。一方で、太陽光発電は天候に左右されず発電を続けるため、電力供給が需要を上回り出力制御が行われやすいです。


系統用蓄電池と出力制御の連携による効果

系統用蓄電池と出力制御の連携は、再生可能エネルギー(特に太陽光や風力などの変動型エネルギー)の利用効率を向上させ、電力系統の安定性を確保するために重要な役割を果たし、相互に補完し合う効果があります。

経済産業省の資料によると、2030年までに日本国内で約30GWの蓄電池容量が必要とされています。これは、再生可能エネルギーの割合が増えるにつれて、電力の需給調整がより複雑化するためです。特に風力発電や太陽光発電が普及することで、出力制御の必要性が増加すると予測されています。

系統用蓄電池と出力制御は、相互に補完し合う技術です。出力制御が必要となる場面では、系統用蓄電池が電力を蓄えることで、出力制御の頻度を減らすことができます。これにより、再生可能エネルギーの活用率を最大化し、事業者の収益を守りつつ系統の安定性を確保することが可能です。


① 再生可能エネルギーの利用率向上

蓄電池がない場合、再生可能エネルギーの供給過剰時には出力制御で発電量を減らす必要があります。これにより、発電できた電力が無駄になってしまうことがあります。しかし、系統用蓄電池を併用することで供給過剰な電力を一時的に蓄電し、需要が高い時期に供給することが可能です。これにより出力制御による無駄を減らし、再エネの利用効率を最大化します。

具体的には、以下のような効果が期待されます。


  • 出力制御の削減
    例えば、蓄電池を活用することで、出力制御による発電抑制を20%削減できるとの試算があります。これにより、発電事業者の損失が軽減され再エネの活用比率が向上します。

  • 発電事業者の収益向上
    出力制御が減ることで発電事業者は発電した電力を無駄にせず、より多くの電力を販売できるため、経済的なメリットが増加します。


② 電力系統の安定性向上

再生可能エネルギーの急激な出力変動は、電力系統の周波数変動を引き起こし、電力の安定供給に悪影響を及ぼします。系統用蓄電池は、これを緩和するためにリアルタイムで電力を供給または吸収することができ、系統の周波数安定化に寄与します。

  • 周波数調整
    蓄電池は瞬時に電力を吸収したり放出したりできるため、急な発電変動にも対応しやすく、系統の周波数を一定に保つことができます。特に風力や太陽光発電では、天候や自然条件によって急に発電が増減することがあるため周波数調整が重要になります。


③ CO2削減効果

出力制御が減少し、再生可能エネルギーが効率的に活用されることで、化石燃料を使った火力発電の稼働が抑制されます。これにより、CO2排出量の削減効果も期待できます。

さらに、地域ごとの再生可能エネルギーの特徴を考慮した「分散型エネルギーシステム」の構築が進むことで、蓄電池と出力制御を活用した電力管理の最適化が実現する可能性があります。このようなシステムは、エネルギーの地産地消を促進し、長期的な電力供給の安定性をもたらすものと期待されています。



まとめ

系統用蓄電池と出力制御の連携は再生可能エネルギーの活用を最大化し、電力供給の安定性を確保するための鍵となります。蓄電池による需給バランスの調整と、出力制御による供給過剰時の対応を組み合わせることで、エネルギーの効率的な運用が実現し、脱炭素社会に向けた重要な技術的進展となるでしょう。

さらに、蓄電設備のコスト低下や性能向上が進むことで、より多くの発電事業者や電力会社が蓄電池を導入する社会へと発展し、長期的な電力供給の安定性をもたらすことが期待されます。

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