系統用蓄電池の運用方法

日本は国内全体の取引電力量の約4割がJEPX(日本卸電力取引所)で行われており、その取引方法は、24時間を30分ごとに区切った48コマに分割し、1コマごとに電力量(kWh価値)の売買を行っています。

再エネ発電量(主に太陽光)が増える快晴の昼間など電気の余る時間帯では安く電気を購入でき、夜間など再エネ発電量が減少し需要が増加する時間帯には高く電気が売れる市場の性質から、市場価格が低いタイミングで蓄電して高くなるときに売電する値差を利用して収益を上げる裁定取引(アービトラージ)が系統用蓄電池の主な収益確保の方法です。




例えば、JEPXスポット市場のシステムプライスがkWhあたり0.01円の時間帯に、5,000kWh分電力を市場から購入し蓄電した後、kWhあたり30.0円まで市場価格が高くなったタイミングですべて放電して売電したとします。すると、買電時と売電時の値差が29.99円となり、単純計算で149,950円もの利益が出るという仕組みです。

これは、あくまで売電収益のイメージであり市場取引や運用に必要な各種経費などは含まれていませんが、それでもどれだけ多くの利益が発生するかイメージできますね。


さらに、電力供給がひっ迫した際に「需給調整市場」(一般送配電事業者が運営)で調整力(ΔkW価値)として取引したり、将来の供給量(kW価値)として「容量市場」(電力広域的運営推進機関が運営)を用いて売買することで、より多くの収益を生み出すことができます。

*瞬間的な変動や時間・日・週、季節的な需供変動に、確実かつコスト効率よく対応する電力システムの能力のこと。



JEPXにおける取引方法

JEPXの取引価格は、近年燃料費高騰などの影響で変動差が大きい状況が続いているため、裁定取引による収益を獲得しやすい傾向にあります。
取引を行うには「取引会員」になる必要があり、適切に電力取引をするためには、スポット価格や需要予測技術や専門的知見が必要不可欠です。
JEPXでは役割が異なる複数の取引市場が開設されていますが、系統用蓄電池による裁定取引で利用する主な市場は以下2つです。


スポット市場

スポット市場は別名「一日前市場」といわれ、受け渡し日の前日に翌日に受け渡しを行う電力の取引を行います。なお、約定日の前日までの入札受付時間は午前8時から午後5時までであり、毎日10時に約定処理が行われます。1コマごとに売買したい電力量と値段を提示して入札する仕組みで、単位時間毎に高い価格から並べた買い注文と低い価格から並べた売り注文の交点で、需要側と供給側の要望が一致した価格で取引単価が決まります。

一例として、ある日の時間帯ごとの電気価格の推移グラフは下図のとおりです。太陽光が発電する昼間時間帯に価格が最も安く、近年は日中晴天だとこのようにシステムプライスが0.01円/kWhとなる日が増えています。価格の高低は需給バランスの状況、価格の絶対額はその時の燃料価格が大きく反映されていると考えられます。

JEPXシステムプライス(2024年5月14日)
出典:一般社団法人日本卸電力取引所 , https://www.jepx.jp/electricpower/market-data/spot


時間前市場

時間前市場は、スポット市場終了後から実需給の1時間前の間に生じる電力の需要と供給の不一致に対応するための市場で、当日市場として実際の需要量が想定より少なく電力が余った場合や、実際の供給量が足りない場合に追加で売買することができます。

約定処理は株式市場同様に、最低価格の売り注文と最高価格の買い注文が一致した場合に約定する方式です。系統用蓄電池を運用する場合、各市場で応札したのち最終的に約定していない電力はこの時間前市場で売電します。



需給調整市場における取引方法

電力系統全体における需給バランスの調整に必要な調整力(ΔkW)を取引する需給調整市場において、蓄電池の応動制御を行うことで売電収益を獲得します。応答速度に応じて5つの商品(一次調整力~三次調整力②)に区分され、商品ごとに取引されています。また、約定価格は実需給の4年前にオークションにて決定されます。



容量市場における取引方法

容量市場は、電源の「潜在的な供給力」を取引する容量市場において、発動指令に対して、蓄電池の応動制御を行うことで、収益の獲得を狙います。需給調整市場同様、約定価格は実需給の4年前にオークションにて決定されています。



2027年

エリア北海道東北東京中部北陸関西中国四国九州
約定価格13,287円/kW9,044円/kW9,555円/kW7,823円/kW7,638円/kW7,638円/kW7,638円/kW7,638円/kW11,457円/kW


その他取引方法

他発電BGや小売電気事業者へミドル電源として直接相対契約を行い売電します。固定価格で契約すれば長期的に安定した収益確保も可能です。



まとめ

系統用蓄電池の運用においては、JEPXの裁定取引を中心に複数市場をまたいだ取引を行うことで収益を高める構造であることが分かりました。

こうしたビジネスモデルは、国内でも実施経験のある事業者が少なく市場価格変動の影響が大きいことから、ハイリスク・ハイリターンな事業環境ともいえます。よって、事業性や投資予見性を少しでも高めるため、専門的に電力運用を実施しているアグリゲーターを選任するなど市場成熟を見据え最適運用に向けた準備をしておくといいでしょう。

Grid Biz.には、系統用蓄電池の運用に欠かせないアグリゲーションも専任マネージャーが在籍。専門知識がなくとも運用方法や投資回収までの収支シミュレーションをお任せいただけます。

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